高齢者に対する失禁予防の体操
高齢者に多い失禁の代表格が、機能性尿失禁や下部尿路障害に代表される腹圧性尿失禁・切迫性尿失禁であろう。このうち、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁に対する骨盤底筋群のリハは、症状の改善に有効であるとの報告が多い。
尿失禁とは
意志に反して尿が漏れる病態を言う。病態により、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁などに分類される。
骨盤底筋群の体操でより効果が期待できる失禁の代表として、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁と言われている。
腹圧性尿失禁
尿道括約筋などの機能低下があり、咳やくしゃみ、運動するなど腹圧がかかる動きをする事で、膀胱の内圧が上昇、尿意を伴わず尿が漏れる。
特に女性に多く、妊娠、出産や肥満などに伴う骨盤底筋群の機能低下や閉経や婦人科手術に伴う括約筋の機能低下により起こる。
切迫性尿失禁
膀胱で蓄尿時、意志と反して膀胱が勝手に収縮して、急に尿がしたくなる。その為トイレまで間に合わずに失敗してしまう。この様な膀胱を、過活動膀胱という。原因は、中枢性神経疾患(脳・脊髄)による神経因性膀胱、加齢、下部尿路閉塞で起こり、原因不明な場合が少なくない。蓄尿の障害であり、膀胱内の残尿は少ない。
骨盤底筋群に対する介入は、薬物療法とは違い副作用が無い事から、始めに試みるべきであろう。
今回介入する骨盤底筋群とは
骨盤底筋群
骨盤の底をハンモックの様に覆う筋群を総称して呼ぶ。膀胱、子宮、直腸などの骨盤内臓器を支えている。女性の方が、出産や加齢による骨盤底筋群の弛緩を伴い易く、腹圧性尿失禁の原因となる。
これら骨盤底筋群は、腹横筋、多裂筋、横隔膜と共にインナーユニットとして機能している事は有名である。つまり、単独で収縮するのでは無く、腹横筋、多裂筋、横隔膜と一緒に活動している。
呼吸を例にとってみよう。
吸気では、図の様に横隔膜は下方に下がり、お腹が膨らむ事で、腹部筋や骨盤底筋群は、伸びる方向に収縮を余儀なくされる。
呼気では、逆に横隔膜は、上方に上がる事で、骨盤底筋群や腹部筋は求心性の収縮をして上方に上がる。
腹圧だけを考えた場合、前者で腹圧は上昇しやすく、その際に失禁しないでいられるには、膀胱の柔軟性と骨盤底筋群や腹部筋の収縮力による。
また、直立姿勢で生活している事や膀胱が球体である事を考えると、膀胱の後方への膨らみを支えるには姿勢を保持する筋群が必要不可欠な事が分かる。
腹圧性尿失禁などでは、くしゃみや咳など腹筋の収縮を伴い腹圧が上昇した事で失禁を起こす為、腹側から押される刺激も同様にこれら筋群の支持性によって保たれている。
つまり、骨盤底筋群をトレーニングする際に重要な事は、呼吸と姿勢という事になろう。安静時座位では、uplight姿勢で有意に骨盤底筋群と腹部筋の筋活動が増加する事が分かっている。
併せて読みたい
骨盤底筋群の運動療法
3つのポイント
1)適切な腹式呼吸の獲得
尿失禁例では、背部や頸部筋を過剰に使用して腹式呼吸を行う場合がある。また、腹斜筋群が緩まない事で吸気を上手く行えない事もある為、指導の内容としては、腹部から動く呼吸を意識してもらうといいだろう。
臥床している事例の場合は、側臥位の方が腹部の動きを出しやすい。
2)股関節の柔軟性を出す
尿失禁例では、姿勢を保持する為、過剰に股関節周囲筋を使用している場合がある。股関節の過剰使用では、骨盤の後傾を伴いやすい。股関節の可動性を獲得する事で骨盤底筋群の筋活動を得られやすい。
3)骨盤底筋群の訓練
口頭指示で行う場合、「尿を止める様に」「膣を上げる様に」
繰り返しになるが、骨盤底筋群は腹横筋、多裂筋、横隔膜と共にインナーユニットとして機能している。そのため、訓練は腹横筋の訓練をベースに考えると判り易い。
まとめ
今回は失禁に効果的な骨盤底筋群の体操に関してまとめてみた。高齢者の半数以上が何かしら下部尿路症状を伴う事を考えると抑えておきたいポイントではないだろうか。そのそも姿勢や体幹機能に関しては、手足の機能低下と違い、日常生活で意識する機会が少ない。そのため知らず知らずのうちに体幹機能が低下し、骨盤底筋群の低下を伴い易い。繰り返しになるが、骨盤底筋群は姿勢や呼吸筋と共に活動している筋群である。訪問リハビリの際は日頃の生活指導に、これらエクササイズ要素を組み込む事をおすすめしたい。
参考文献
地域リハ8(11):829-833.2013 高齢者に対する失禁予防・改善のためのトレーニング