時々刻々作業療法しましょう

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排尿障害 下部尿路機能障害のリハビリテーション

下部尿路機能障害というと聞き慣れない方も多いかもしれない。簡単に言うと、下部尿路である膀胱尿道の機能障害を指す。2002年日本排尿機能学会の調査では、60歳以上の男女78%が下部尿路症状を有すると報告している。この下部尿路の機能は蓄尿「排尿」に分けられる。以前はこれら機能障害を一括して排尿障害と呼ぶ場合が多かったが、正確には「蓄尿障害」「排尿障害」と表現すべきだろう。

結論から言うと

蓄尿障害は、尿失禁や頻尿の原因となる。排尿障害は、排尿困難の原因となる。

高齢者ではこれら下部尿路機能障害に伴う症状が多く観察される。

 

下部排尿機能障害の症状(見るポイント)

蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状に分けて考えるとわかり易い

蓄尿症状:頻尿、夜間頻尿、尿失禁など症状を伴う

②排尿症状:尿勢低下、排尿開始遅延、尿線途絶(尿が途切れる)

③排尿後症状:排尿後尿滴下、残尿感、

 

下部尿路の解剖学と働きについて

性別による下部尿路の構造

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尿をためる場合と尿を出す場合の下部尿路の状態 

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 機能解剖学的には

蓄尿時:膀胱括約筋が弛緩  膀胱頸部・尿道括約筋が収縮

(※障害されると、尿が漏れる) 

 

排尿時:括約筋が弛緩 膀胱排尿筋が収縮

(※障害されると、尿が出ない)

 

1.膀胱:平滑筋(膀胱排尿筋)で蓄尿と排尿を行う袋。通常は300~500mlの尿を溜める事が出来る。蓄尿時は膀胱平滑筋は弛緩、膀胱は低圧に保たれる。膀胱出口や尿道にある内尿道括約筋(平滑筋)と外尿道括約筋(骨格筋)で蓄尿時尿が漏れない様にしている。

2.尿道男性の尿道は約20㎝、女性の尿道は5㎝ 男性のみ膀胱から尿道になる部分に、前立腺があり、前立腺が肥大する事で、尿道抵抗が増す為、排尿障害の原因となる事は有名である。

 

尿道抵抗を構成する要因>

①内尿道括約筋、②外尿道括約筋、③前立腺(男性)、④尿道、⑤骨盤底筋群からなる。男性の場合は尿道が長く、前立腺の中を通り、外尿道括約筋が強力なため尿が漏れにくい構造の代わりに、排尿障害が起こり易い。女性は、尿道が短く、尿道が下方に真っすぐで、膀胱下垂が起こり易い為、排尿障害は起こり難いが、尿が漏れやすい構造と言えよう。

 

 3.骨盤底筋群:骨盤の底をハンモックの様に覆う筋群を総称して呼ぶ。膀胱、子宮、直腸などの骨盤内臓器を支えている。女性の方が、出産や加齢による骨盤底筋群の弛緩を伴い易く、腹圧性尿失禁の原因となる。

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引用:骨盤底筋1dayコース〜一般の方向け〜 | ピラティス「REBORN」スタッフブログ

 尿失禁のタイプと病態について

 尿失禁とは、意志に反して尿が漏れる病態を言う。病態により、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁に分類される。

 

腹圧性尿失禁

尿道括約筋などの機能低下があり、咳やくしゃみ、運動するなど腹圧がかかる動きをする事で、膀胱の内圧が上昇、尿意を伴わず尿が漏れる。

特に女性に多く、妊娠、出産や肥満などに伴う骨盤底筋群の機能低下や閉経や婦人科手術に伴う括約筋の機能低下により起こる。 

 

 切迫性尿失禁

膀胱で蓄尿時、意志と反して膀胱が勝手に収縮して、急に尿がしたくなる。その為トイレまで間に合わずに失敗してしまう。この様な膀胱を、過活動膀胱という。原因は、中枢性神経疾患(脳・脊髄)による神経因性膀胱、加齢、下部尿路閉塞で起こり、原因不明な場合が少なくない。蓄尿の障害であり、膀胱内の残尿は少ない。

 

溢流性尿失禁

尿排出障害の為、膀胱内に多くの残尿が存在し、尿道から尿が溢れて常に少しづつ漏れてしまう。原因は、排尿筋の活動性が低下している事や下部尿路閉塞で起こる。排尿筋の低活動は末梢神経障害による神経因性膀胱などで見られる。

 

機能性尿失禁

 下部尿路機能障害とは関係が無く、トイレ動作が正常が行えないため起こる。認知機能やADL障害、環境との不適合など、主に高齢者で多くみられる失禁のタイプである。高齢者の場合、これら複数の失禁が重複して存在する事が多い。

 

その他

様々な因子が失禁と関係している

〇高血圧、心疾患、腎機能低下に伴う夜間多尿

〇糖尿病に伴う神経障害や多尿

〇内服薬による影響

〇環境因子

 

排尿困難、尿失禁の治療

生活指導

1.水分摂取量の制限

2.アルコール制限

3.便秘の改善

4.適度な運動

5.排尿に関係する薬剤の調整

6.環境調整

 

骨盤底筋群訓練

肛門周囲や膣を閉める様な運動を、適切な指導の基に、一定時間実施する事で腹圧性失禁に対する運動が確立している。女性の混合性尿失禁や切迫性尿失禁に対しても有効な場合が多い。また、干渉低周波を使用して、電気刺激を行う電気刺激療法などもある。

 

膀胱訓練

機能的膀胱容量を拡大する訓練を言う。4~8週間かけて徐々に容量を拡大していく。尿意を感じてから少し間隔を持って、排尿をする事を指導。抗コリン薬と同等の結果が報告されている。薬物療法をこれら訓練と併用して行う。

 

以上簡単ではあるが、下部尿路機能に関する解剖を基に、失禁や排尿困難に関して述べた。具体的な失禁に対する指導や具体的方法は次回に譲るとして、前序した様に、下部尿路症状を伴う高齢者は多い。対象者の失禁がどのタイプのものか鑑別しながら適切な関わりを模索していく事が臨床では求められる。

 

参考文献

地域リハ vol.8 No.11  2013年 11月 高齢者における下部尿路障害の特徴と治療