時々刻々作業療法しましょう

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高齢者における排便障害

高齢者の排便障害というと、一般的には、便秘や下痢、便失禁などの症状が連想される。これら症状は、生活障害として認識されて初めて問題となり、羞恥心などプライバシーの問題も影響し、「外に出掛ける事が出来ない」といった社会的障害を引き起こす。また、排便は健康管理にも密接に関係している。訪問リハを行っていると、「毎日排便が出ているから問題ない」という言う家族や利用者も多く、排便を間隔で評価する事で問題ないとする意見が多い。

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統計的な話になってしまうが、一般的には、便秘は男性より女性に多い傾向がある。

生活習慣病と言ってもいい位、便秘は認知されている病気だろう。では、便秘の症状を抱える人はどの程度いると思うだろうか。ある統計では、非高齢者の便秘の割合は2%ほどに対して、65歳の男性では、26%、女性34%と年齢が増すごとに多くなることが分かっている。これは、高齢者になるにつれ、身体機能面の低下や服薬による影響など受けやすい事が要因である。次に、便失禁はどうだろう。実は65歳以上の8%ほどが該当すると言われている。

しかしながら、これら研究も実施する場所を老人保健施設など施設に限定して行った場合、50~74%が便失禁であるという結果もある。結果から見ると便失禁の危険因子は、年齢だけではなく、併存する疾病や全身的な健康状態に内服など複数要因と対象場所に寄って大きく変わる事が分かる。

高齢者の排便障害の特徴としては、全身疾患の影響、認知能力、活動性の低下などが要因で容易に起こり易く、内服などの影響も受け排便障害として現れている。

 今回のテーマは高齢者の排便障害に影響を与える要因についてまとめてみた。

排便が作られる過程で抑えておきたい6つのポイント

1.生活様式

2.食事

3.消化機能

4.直腸肛門機能

5.トイレ環境

6.活動量

 

直腸肛門機能

便を溜める働きと便を出す機能を言う。便意は、直腸に便が降りる事で、直腸が膨らみ便意を感じる。便意を感じると普段綴じている内肛門括約筋の弛緩(直腸肛門抑制反射)が起こるが、外肛門括約筋が随意的に収縮する事で便が漏れる事はない。

しかし、便意の感覚が低下すると、直腸に便が充満してしまう嵌入便(かんにゅうべん)が起こる。

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引用:http://www.carenavi.jp/jissen/ben_care/problem/problem04.html

 この嵌入便による便失禁が、高齢者や脳血管障害で多い便失禁パターンと言われている。肛門の手前で固い便が溜まっており、自力で出すことができなくなった状態。この状態で、マイナス3~4日目に下剤の指示がある場合、嵌入便が停滞したまま、下剤によってできた下痢便が隙間からだらだら漏れ出し、便失禁を伴う事になる。当たり前と言えば当たり前だが、下剤は腸に作用する為、既に嵌入便になって便には作用しない。摘便や浣腸をしてしっかり出す事が必要となる。寝たきり高齢者の場合など、必要があれば直腸を触診する事や側臥位にした時に肛門が開ききる為、黒い便が顔を出す事がある。



いきみの問題

次に便の排出には、「いきみ」「姿勢」「骨盤底筋群の弛緩」が必要になる。訪問リハで重要になるのは、いきみによる腹圧の上昇を骨盤へと伝える為の姿勢が重要となる。効率的ないきみ姿勢とは、頸部伸展、骨盤を後傾し、体幹をやや前屈した姿勢をいう。(詳しくは別の機会に)座位保持が可能な場合、腹圧を上昇させる姿勢が問題となるが、ベッド上で排泄を余儀なくされる寝たきりの方や高齢者では、いきみ難い事自体が問題として挙げられる。いきむ動作は、前述した様に、頸部を軽度伸展し,体幹屈曲,骨盤後傾,股関節屈曲・外転・内旋位で足底を床面に接地した姿勢で行う。背中をベッドに押し付けた姿勢では、いきみの際、腹筋群の活動が増加しやすく、骨盤が不安定になる為下肢を押し付ける場合が多い。先行研究では、ベッドでの排便動作は骨盤の後傾安定と下肢安定をする事でやり易くなるとする研究もある事から、ベッド上でのいきみの問題は、頸部屈曲姿勢とギャッチアップによる股関節屈曲に伴う骨盤後傾の安定がポイントとなろう。

 

 消化機能

便の形と全消化管の通過時間は相関する事が分かっている。食事を摂取してから便として排出した時の形で、消化にどの程度時間がかかったかの消化吸収評価ができる。有名なスケールとして、ブリストル便形状スケールがある。

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 Type4が理想的な形状である。水様便が続いている場合などは、下剤の減量を検討する。 Type1~2では通過に時間を要しているため、食事内容の見直しを行う事や、下剤の調整が必要であろう。

 

食事と活動性

便の形成に必要な成分は、食物繊維や腸内細菌と言われている。食物繊維の量が多いか、少ないか発酵食品が含まれるかによって便の総量が変わってくる。便は身体からのお便りと言われる様に様々なメッセージを伝えてくれる。

健康な排便は、80%が水分である。

残る20%のうち3分の1が食べカス、3分の1が生きた腸内細菌、3分の1がはがれた腸粘膜を言われている。

便の量は、1日140~150gほど出ているといいと言われ、食物繊維が足りている理想の便とは、やや黄色、形状はバナナ、水に浮くと言われている。

また、朝食を胃に入れると寝ていた胃が刺激され、「胃・結腸反射」から排便が促され、良い排泄サイクルを生むきっかけになる。朝は一日の始まりであり、排便で悩む方には必ず摂取する事を薦めたい。

 

活動量

運動不足が排便に影響する事は有名であろう。運動によって腸の血流が増し動きが良くなる事や食事量が増える事が良い効果とされる。また、自律神経に作用し、胃腸の協調性を促すとする考えもある。

どの程度の運動量が適切かは、身体機能や認知機能によって変わってくる。動けない高齢者の場合は、腹部をマッサージし血流を促す事や手足の運動などから始めるといいだろう。歩ける高齢者は、散歩や体操など積極的な参加が望まれる。

まとめ

高齢者の排便障害について概要をまとめてみた。今回まとめた要因以外にも、認知機能面や環境面など様々な要因で排便の問題は起こってくる。

便失禁というと、下剤使用を一番に連想する方も多い。下剤の使用が必ずしも悪い訳ではないが、下剤によって容易に便失禁は起こる。排便障害は、タイミングと生活習慣が重要であろう。便意を催したタイミングで、適切に誘導できる事やいきみやすい姿勢を保つ事、生活の問題を見直す事などできる事から始める事をお勧めしたい。