第2回 正常な排尿動作 トイレの認知をどうとらえるか?
排尿障害を考える物差しは「正常な排尿」であろう。第2回目の今回は、トイレや便器の認識に関してまとめてみよう。
正常な排尿動作の9つの段階
1)正常な尿意
2)トイレ・便器の認識
3)移動
4)脱衣
5)便座への乗り移り
6)排泄
7)後始末
8)着衣
9)移動
トイレの認識が障害される原因として考えられる疾患
1)視力障害
2)高次能障害
遂行機能障害:動作の手順が分かりにくくなる症状をいう。前頭葉や側頭葉など病変で起こり易い症状。調理や洗濯、片付けなど日常の様々な行動で失敗が目立つ様になる。
半側空間無視:右大脳半球損傷に多く、左側の視空間だけでははく、触空間や聴空間など他のモダリティーにも影響が出る。半側空間無視では左側での刺激を認知できない事が多く、トイレの位置に寄って認知できない場合がある。
3)認知症
トイレが分からなくなるほど認知症が進行している場合と今トイレに行きたいとは思わないといった「タイミングの問題」や別の課題で頭が一杯になっているなど「ある条件下」で正しくトイレが認知できない場合がある。
トイレの認識とは
トイレの認識を2つの視点で捉えるとしよう。
1.トイレの場所が分かる
2.尿器便器の使い方が分かる
の視点であろう。
トイレの位置が理解できない場合の対策
1)視力障害者(全盲・弱視)の場合
自宅のトイレであれば、ある程度慣れる事で、トイレの場所の理解は可能であろう。視力障害でのトイレの認識問題は、環境が変わった時や外出先である。
全盲や弱視の方に行った公衆トイレの意識調査研究では、公衆トイレ使用時に「困る事」、「時々困る事」を各項目ごとにまとめている。
視力障碍者の93%は、「場所そのものがどこか分からず困る」と回答。また、84%が「男子トイレなのか女子トイレなのかの認識ができない事」を訴えている。解決方法として、殆どの方が「人に聞く」と回答している。便器の使用に関しては、点字や経験を基に予測がしやすい為、55%の方は特に問題を感じないと回答している。しかしながら、最近のトイレは高機能なものが多いことや身体障害者用トイレやオスメイト対応トイレの普及など時代の流れから複雑化している。流す動作もレバー式ではなく、ボタン式のものも多くなっており使い方にも配慮は必要だろう。 繰り返しになるが、トイレの場所の理解は、定位置が基本であり、一定時間かかる事を踏まえておこう。
2)高次能障害の場合
半側空間無視など高次能障害を呈する方への環境調整では、認知しやすい場所や体性感覚(触って確認、便座に乗り移って感じるなど)との統合を図る事が有効と言われている。本人がどこまでなら認知出来ているかを確認しながら、適切な配置を検討する。また、半側空間無視では、姿勢の崩れが著明な場合が多い。姿勢などにも注意しながら環境を調整していく。
3)認知症の場合
認知症の方は言葉で理解する事より、視覚的に確認した方が安心しやすい。つまり、視覚的な刺激を有効活用するとトイレの場所など分かりやすい。
トイレのマークのピクトグラムの使用や直接「トイレ・便所」など大きく判り易く提示する。また、トイレに似ているところで用をたしてしまう事もある。その場合、誤解しない様な工夫が必要だろう。トイレが分かりやすい様、光度をやや明るめに保つ事や誤解しやすい場所に敢えて、目立つところに矢印でトイレまでの動線を提示するなど、本人の行動を見ながら工夫しよう。
尿器・便器の使い方が理解できない場合の対策
ここで問題になる多くの場合は、高次能障害による遂行機能や認知症によるものであろう。
高次能機能障害の場合
トイレの認識があるにも関わらず動作が遂行できない場合①計画立案、②実行、③フィードバックのどこの過程で躓いているかを評価する必要がある。
下記に遂行機能障害でのトイレ使用のポイントをまとめてみた。
①計画の立案(スタートからゴールまでの設計図が正しいか?の視点)
1)便器の蓋を開ける
2)ズボンを下げる
3)拭き取る
4)水を流す
6)便座を戻す
・どの程度の工程数であればできるのか?
・計画の順番は合っているか?
②実行
・強さ
便器の蓋を上げる、拭き取り、水を流すときの力の強さ・方向などできているか?
・手がかりがある事で実行可能かどうか?
(言語化する、視覚的手がかり)
③フィードバック
・成功する確率は?(再現性があるかどうか。)
・効率的に遂行出来ているか?
(振り返りが可能か。)
認知症の場合
トイレの問題はデリケートな問題である。当然、認知症の方も同じ様に考えている場合が多く、使い方が分からない為に起こる失敗なのか、別の原因があるのかを見極めるところから見る必要がある。トイレの回数が増えていないか?トイレに行く前に既に失敗していないか?など確認する。使用の問題である場合は、流させないのか?蓋を上げないのか?自宅のトイレでは問題なかったか?など聞き取りも踏まえ実際にケアに当たっている方に確認するといいだろう。今まで慣れたやり方で、流し忘れなど多少の工程の抜けは想定内(〇〇さん使用後は水を流すなどケアを決めておく事など)と余裕をもって関わる事が重要であろう。張り紙など視覚的な手がかりなど活用しながら失敗をしない工夫を考えると良い。
まとめ
便座の認識について簡単にまとめてみた。最近の傾向として、便座も自動化している事、見た目もデザインされている事で、高齢者は見慣れない事に戸惑う事も少なくない。本人目線で考えた場合、慣れた動作や道具は重要な要素であろう。また、トイレ空間は個室で、デリケートな空間である。転倒事故や失敗体験などリスクを伴い易い為、ご本人に了解を得てから援助をする事を改めて強調しておこう