訪問リハビリテーション リスク管理(心不全)
前回は、糖尿病のリスク管理をまとめてみた。第2回目の今回は、訪問リハビリでの心不全のリスク管理と題して、訪問リハビリでの心不全を抱える方と関わる上での注意点などまとめてみた。
第2回 訪問リハビリのリスク管理(心不全編)
そもそも心不全とは
体が必要とするだけの血液を心臓が十分に拍出できない病態で病名ではなく症候名をいう。
色々な原因で生じる心臓の機能障害=心不全となる
心臓の機能とは
1.ポンプ機能
酸素や栄養を含んだ新鮮な血液を全身に運ぶ機能
2.ガス交換機能
全身から戻った血液を肺に運び、再びガス交換をして、新鮮な血液を心臓に戻す機能
心臓の働きが弱くなるとは
血液が全身に運べない(心拍出低下)とガス交換がうまく行えない事で、血液が滞った状態になるうっ血によるもの。心臓と肺は太い血管で繋がっているため心臓に血液が溜まるという事は、肺にも血液が溜まる(肺うっ血)が起こる。この状態が心不全の症状の中核と言ってもいいだろう。
心拍出量の低下によって
・動悸
・易疲労感(疲労を感じやすくなる)
・低血圧
・四肢チアノーゼ(手足の末端の血色が悪い)
・意識障害(脳に十分な酸素が行かない)
・乏尿(尿の量が1日400ml以下になる)
うっ血症状によって
・水が溜まる(浮腫、腹水)→体重増加
・食欲低下、吐き気、嘔吐
・呼吸困難(肺に血液が溜まるため)
などの症状が現れる、特に下線で記載した症状は、臨床的に良く観察される為、注意して観察する。
心不全の原因は様々
心不全は症候名であるため、様々な原因で起こる
1.心臓自体に問題がある場合
1)虚血性心疾患
2)心臓弁膜症
3)不整脈
4)先天性心疾患
2.心臓以外に問題がある場合
1)高血圧
2)糖尿病(腎機能障害含む)
3)貧血
5)その他(悪性腫瘍、アルコール過多)
原因は様々だが、高齢者ではその約半数が「虚血性心疾患」によるものと言われている。
虚血性心疾患とは
心臓の筋肉(心筋)に、酸素や栄養を含む血液を送り込んでいる冠動脈という血管が、動脈硬化などの原因で狭くなったり、閉塞したりして心筋に血液が行かなくなることで起こる疾患
高齢者に多い慢性心不全とは
「慢性心不全」の定義
慢性の心筋障害により、心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液の量を絶対的に拍出できない状態であり、肺、体循環系または、両系にうっ血をきたし日常生活に障害を生じた病態」
とあり、その病態や時期によって「急性心不全」「左心不全」「右心不全」など区分けがあるわけだが、いずれにせよ、訪問リハビリで言う心不全とは「慢性心不全」と言ってもいいだろう。
慢性心不全の状態をみる方法は?
重症度から判断する
心不全の重症度New York Heart Association(NYHA)
引用:https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/heart-failure/diagnosis/
NYHA Ⅰ度
心不全はあるが症状は無い。日時生活も通常で制限されないもの。
運動量目安:7Mets以上可能
NYHA Ⅱ度
心疾患で日常生活が、軽度〜中等度に制限される。
安静時無症状だが、通常の行動で疲労や動悸、呼吸困難、狭心痛が生じてしまうもの
運動量目安:5〜7Metsほど
NYHA Ⅲ度
心疾患で日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状。平地の歩行、日常生活以下の労作で症状が見られる。
運動量目安:2〜5Mets
NYHA Ⅳ度
心疾患で、非常に軽度な活動でもなんらかの症状が出る。安静時においても、狭心症・心不全症状が生じる。
運動量目安:2Metsより低い活動
Metsの計算式参考サイト
現在担当している方がどの状態か、大まかな運動目安をつける意味で参考にするといいだろう。
また、運動目安として、臨床的に簡単なBorgスケールなども活用する。
数値結果からみる
1.ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド
(brain natoriuretic peptide:BNP)
心臓(心室)から分泌されるホルモンで、心臓に負荷がかかったり、心臓の筋肉が厚くなると、増加する。BNP値が高値ほど心不全が重症という事になる。
成人基準値:20pg/ml
※高齢者でやや上昇する
- 40〜50pg/mlを超えている場合
臨床的に、何かしらの心疾患があると考える
- 100pg/ml以上
治療対象となる
- 200〜400pg/ml
中等度の心不全
- 600pg/ml
重症の心不全
- 入院の目安:200pg/mlと言われる。
引用:地域リハ 13(5):358-361.2018
急性、慢性心不全の治療ガイドライン2017(JCS2017)では、外来心臓リハビリテーションにおけるチェック項目として、前回よりBNP値100pg/ml上昇は心不全増悪の兆候として採用してあるため、確認が必要だろう。
※JCS2017 心不全の外来心臓リハビリテーションにおけるチェック項目と心不全増悪または負荷量過大の兆候
引用:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000202651.pdf
2.運動負荷試験6分間歩行距離
450m以下:中等度の心不全
250m以下:重症の心不全
これらの数値は、症状と併せて判断する材料になる。目安として覚えておくと役に立つ。
心不全運動療法の禁忌・リスク
これらは、ご自宅や訓練時の様子から、運動が可能かの判断に使用する。
慢性心不全の主な症状は、
1)労作時の呼吸困難感
2)易疲労感
であろう。以下、心臓リハビリテーションで使用されている「急性、慢性心不全の治療ガイドライン2017(JCS2017)」「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」より抜粋した
絶対禁忌
・過去3日以内の心不全自覚症状増悪
・不安定狭心症、閾値の低下 (平地ゆっくり歩行2Mets以下で誘発される)
・手術適応の重症弁膜症 大動脈弁狭窄
・未治療の運動誘発性不整脈など
相対禁忌
・最近1週間以内の体重2kg以上増加
・運動による収縮時血圧低下
・運動による自覚症状の出現((疲労,めまい,発汗多量,呼吸困難など)
1. 積極的なリハを実施しない場合
[1] 安静時脈拍40/分以下または120/分以上
[2] 安静時収縮期血圧 70mmHg 以下または 200mmHg以上[3] 安静時拡張期血圧 120mmHg 以上
[4] 労作性狭心症の方
[5] 心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合
[6] 心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合
[7] 著しい不整脈がある場合
[8] 安静時胸痛がある場合
[9] リハ実施前にすでに動悸・息切れ・胸痛のある[10] 座位でめまい,冷や汗,嘔気などがある場合
[11] 安静時体温が 38 度以上
[12] 安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下
2. 途中でリハを中止する場合
[1] 中等度以上の呼吸困難,めまい,嘔気,狭心痛,頭痛,強い疲労感などが出現 した場合
[2] 脈拍が140/分を超えた場合
[3] 運動時収縮期血圧が 40mmHg 以上,または拡張期血圧が 20mmHg 以上上昇
した場合
[4] 頻呼吸(30 回/分以上),息切れが出現した場合[5] 運動により不整脈が増加した場合
[6] 徐脈が出現した場合
[7] 意識状態の悪化
3. リハを中止し,回復を待って再開
[1] 脈拍数が運動前の 30%を超えた場合。ただし,2 分間の安静で 10%以下に戻らないときは、以後のリハを中止するか,または極めて軽労作のものに切り替える
[2] 脈拍が120/分を越えた場合
[3] 1 分間 10 回以上の期外収縮が出現した場合
[4] 軽い動悸,息切れが出現した場合
4. その他の注意が必要な場合
[1] 血尿の出現
[2] 喀痰量が増加している場合 [3] 体重増加している場合
[4] 倦怠感がある場合
[5] 食欲不振時・空腹時
[6] 下肢の浮腫が増加している場合
また、下記の様に
訪問リハビリの効果は、NYHAⅠ〜Ⅲ度の安定期にあるコントロール群でより効果的とあり、安定期にあるとは「過去1週間以内において、心不全の自覚症状及び増悪がない状態を指す。」
※地域リハ 13(5):358-361.2018
とある事から、症状の聴取に関しては、1週間程度の様子を聞き取り、訓練が可能な状態かを判断すると良い。
浮腫の評価
一般的な浮腫は、足首より下に起こる事が多いが、
心不全の浮腫は、両側性で全身に起こる特徴がある。必ず両側確認する事。進行した例では、体幹にも浮腫が認められる事があるので、触って確認する事が必要である。
周径の計測方法はこちらを参照
食事制限・服薬管理
心不全では、塩分や水分制限がされている場合がある。心不全は血液がうっ血した状態であるため、塩分過多や水分過多により、更に心不全の増悪を招く事に繋がる。一般的に1日7g程が良いとされるが、減塩に関しても、聞き取りを行う
また、利尿剤を処方されている方も多い。高齢者の場合、トイレが頻回になる事を嫌う傾向もあるため、自己中断している方も見受けられる。高齢者では水分制限に伴い脱水が起こる可能性もあるため注意して観察が必要だろう。
まとめ
僕は、臨床では主に訪問でリハビリをしており、心疾患に関して専門的に関わっている訳ではない。主な対象者は高齢者であり、その多くに心疾患を抱えている場合がある。概要的な内容だが、在宅では療法士が訓練の実施判断をする場合が多く、安全に行える基準が必要である。運動療法や生活指導をする上では今回まとめた内容は、リスク管理の基準となる内容であろう。運動習慣と安静による二次的廃用症候群予防は、在宅での心不全リハビリでは重要な課題であるため、継続出来る範囲での運動を提供するためにも是非抑えておこう。
参考文献
・地域リハ 13(5):358-361.2018
・リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインhttp://www.jarm.or.jp/nii/iinkai/sinryo-guide/risk-manage_GL_draft.pdf